早いもので、2010年も終わろうとしています。
1984年に作られた映画「2010年」では、「2001年宇宙の旅」で人類を文明に目覚めさせた宇宙の超知性体が、今度は木星の衛星エウロパに芽生えた知的生命体が進化する環境を作るために木星を太陽化させるたのが西暦2010年でしたが、私たちの"現実"においてはそのような出来事は起きませんでした。
しかしその代わりに、遺伝子工学の発展で人工生命を生み出せることが証明された年となりました。
http://www.ted.com/talks/lang/jpn/craig_venter_is_on_the_verge_of_creating_synthetic_life.html(驚くべきことが語られているビデオですので、お時間があれば是非観てみてください。)
"私たち"は近い将来、私たちの乗り物である遺伝子が産み出した身体さえも、私たちの思い通りに改造していくことでしょう。これは「ミームによる遺伝子の征服への第一歩」であると言えます。
人工的に合成したDNAから生きた細胞を作ることに成功したベンター博士は、「遺伝子プールは未来の設計図である」というようなことを語っていましたが、私は「遺伝子プールも重要だけど、人類の未来はどちらかと言えばミームプールから作られる」と考えます。
ベンター博士たちの業績もまたミームプールに新たに加わった重要なミームであり、それが私たち人類の脳を駆動し、新しい世界を構築していきます。ミームプールの充実が、未来の"現実の進化"を創っていくのです。
遺伝的には数万年来大きく進化していない私たち(ヒト)ですが、脳内にあるミームたち(=私たち)は急速に進化し、私達自身の未来を大きく変えようとしています。
来年はいったいどんな進化が私たちを待っているのでしょうか?
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ベンター博士の業績には遠く及びませんが、私も自分にできることからコツコツと、ミームの研究を進めています。
今までの所は、いくつかの仮説を立てたにとどまり、それらを証明するための活動には手がつけられていませんが、一歩ずつでも半歩ずつでも前進していきたいと考えています。
さて、今回はインド放浪中に書いたタージマハルについてのエッセイをお送りしたいと思うのですが、読んでいただくに当たってはひとつ、私のミームに関する仮説を理解していただく必要があります。
いえいえ、ご心配なく。そんなに難しいことではありません。簡単にいえばこう言うことです。
1、私たちの思考は脳内のミームによって生じ、私たちの行動はその派生物である。
2、私たちの行動によって作られるあらゆる人工物を"アーティファクト"と呼ぶこととする。私たちは他人の(または自分が過去に生み出した)アーティファクトに触れることで、新しいミームを脳内に生じさせる。
では、それを踏まえて、数百年前のインドを支配した皇帝の"愛"について考えてみましょう。
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タージマハルは、世界最強の"愛のアーティファクト"かもしれない。少なくとも、建造物としてはそうに違いない。
霊廟に入った私は、かの皇帝の狂おしいほどの愛を感じました。
白亜の宮殿や広大な庭。計算され尽くした各要素の配置。細部までこだわり手抜きのない意匠。世界各地から選りすぐりのスタッフと素材をかき集め、作り上げたこの壮大なアーティファクトの殆ど全てが、たった一人の女性の為なのです。
シャー・ジャハーンはムガール帝国の第四代皇帝で、タージマハルは早逝した皇妃の為に建てられました。
彼の愛はどれほど深かったのでしょうか。
きっと、熱愛のさなかに彼女を失ったのでしょう。
通常、人間の恋愛感情は二年をピークに消えて行くといいます。しかし、タージマハルの建設には20年以上の歳月が掛かったとのこと。彼の愛は、そのピークに相手を失うことにより、そのまま凍りついたのかもしれませんね。
それは、果たして幸せなことだったのでしょうか。
タージマハルの完成後、シャー・ジャハーンは自らの墓として、同規模の巨大建造物をタージマハルの対岸に建て、永遠に妃と見つめ会う様に並び建つことを夢見たそうです。
しかし、三男の反逆により幽閉され、その計画は潰えてしまいました。
三男は、長男が後継者に選ばれたことで牙を剥いたとされている様だが、父のあまりの乱心ぶりに業を煮やしたという側面もあったのかもしれません。
王妃の墳墓建設に費やされた国費は尋常ではなかったはずです。
そしてさらに同等の予算をつぎ込んで、自らの墳墓も建設するというのです。反対意見も少なくなかったでしょう。
皇帝の墳墓は基礎部分のみが作られた。今でもタージマハルの裏から、河を挟んでその痕跡を見ることができます。
反逆の後、アーグラ城に幽閉された皇帝は、死ぬまで涙にくれていたそうです。
そして、二人の兄を殺し、自らを幽閉した第五代皇帝によって、タージマハルの霊廟の中、彼の愛した妻のすぐ隣に葬られたのでした。
しかし、彼の壮大な愛は、本当に愛と呼べる物だったのでしょうか。
そもそも、愛とはなんなのでしょうか。
私は、タージマハルの霊廟の中で、こんなことを考えました。
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彼の心の中には、"妃への愛"というミームを中心とした、巨大なミーム複合体が生じていたのではあるまいか。
それは彼女の死後も成長を続け、やがて皇帝の心を支配した。彼はあらゆる事を無き妃と結びつけて考える様になり、皇帝の地位と相まって、そのミーム複合体こそがタージマハルという奇跡を作り上げた。
愛の原型は生物学的な本能によるものであっても、それと結び付いたミームは強力であり、それを核としてさらに強力なミーム複合体を形成し得る。それはその宿主の心を支配し、時に恐るべき力を発揮する。
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これが、地上最大の愛のモニュメント、当時の人類の能力を結集して作られた巨大なアーティファクトを解読して、私の頭の中に生じた思考です。
これがどんなミームとなって定着し、私の今後の振る舞いに影響を与えて行くのか、今はまだはっきりと言えませんが、きっと私にとっての"愛"の定義とそこから派生する行動に少なからぬ影響を与えていくことでしょう。
あなたは、あの壮大なアーティファクトに触れたとしたら何を思うでしょうか。
そして、どんな影響を受けるのでしょうか。
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私たちの心は、様々なアーティファクトに触れることで、少しずつ形を変えていきます。
それは、一冊の本の中の言葉だったり、心を震わす音楽だったり、誰かの何気ない行動だったりします。
来年、あなたが素敵なアーティファクトとたくさん出会えますように。

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